ら仏像を盗みだすんだ」
「えっ、仏像を……」
「仏像といっても、けちなものじゃない。いずれ準国宝級のものだ。こういう風変りな仕事をおっ始めたわけは、近頃の坊主どもの中には悪ごすい奴がだんだん殖えて来やがって、生活難だの復興難だのに藉口《しゃこう》して、仏像を売払う輩《やから》が多くなった。まさか本尊さまを売飛ばすわけには行かないが、それと並べてある割合立派な仏像を、いい値で売払いやがるんだ。途方もねえ坊主どもだ。そこでおれの調べたところによると、これからいう五体の仏像はとりわけ尊いものばかり、それを売り飛ばしにかかっている坊主の先廻りをして、お前にこっちへ搬《はこ》んで貰うんだ。どじを踏むなよ、いいか」
「へえ。それは又変った仕事だねえ」
「五つの寺の所在と、さらって来る仏像の名前とスケッチは、この紙に書いてある。さあ、これをそっちへ渡しとくぜ」
 烏啼は懐中から書付を出して、貫一の方へ差出した。お志万が橋渡しをして、貫一へ渡してやった。
「ほほう。第一は目黒《めぐろ》の応法寺《おうほうじ》。酒買い観世音菩薩木像一体《かんぜおんぼさつもくぞういったい》。第二は品川《しながわ》の琥珀寺《
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