奇賊悲願
烏啼天駆シリーズ・3
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)烏啼天駆《うていてんく》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)義弟|的矢貫一《まとやかんいち》
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   義弟の出獄


 烏啼天駆《うていてんく》といえば、近頃有名になった奇賊であるが、いつも彼を刑務所へ送り込もうと全身汗をかいて奔走《ほんそう》している名探偵の袋猫々《ふくろびょうびょう》との何時果てるともなき一騎討ちは、今もなお酣《たけなわ》であった。
 その満々たる自信家の烏啼天駆が、こんどばかりは困り果ててしまった。散歩者の胸の中から心臓を掏《す》り盗《と》る技術も持っているし、一夜のうちに時計台を攫《さら》っていってしまう特技もある怪賊烏啼にとって、天下に困ることは一つもない筈だったが、こんどというこんどばかりは、彼は大困りに困り果ててしまったのである。そのわけは、彼の只一人の愛すべき、義弟が、満期になって刑務所から出て来たことだった。
 刑務所から晴れて出て来たんだから、まことに結構なわけで、困る事なんかすこしもない筈だが、かれ烏啼は大いに困り果てる
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