のかね」
「なにを寝ぼけてやがる。――どじを踏んでみろ。皆から洟《はな》もひっかけられねえぜ。お前の腕は確かだろうね。焼きが廻っているんじゃないか」
「憚《はばか》りながら……」と貫一は、とうとう座り直して真剣な目付になった。
「憚りながら的矢の貫一、胆玉がよわくなったの、腕があまくなったのといわれちゃあ――」
「そんならいい。今夜から仕事に行ってくれ。お前ひとりでやるんだぜ、五体揃えば、五百万両の仕事だ」
「五百万両。それなら仕事の返り初日にはちょうど手頃のものだ。一体それはどこへ行って貰ってくるんで……」
「本当にやる気があるのかい。臆気《おじけ》をふるっているんなら、『まあ見合わせましょう』というがいいぜ。今が最後のチャンスだ」
烏啼は念入りに義弟に油をかける、そういわれては貫一たるもの、何がどうあっても兄貴からいいつけられた仕事をやってみせないでは済まなくなった。
「兄貴、今からでも出かけますぜ」
と、貫一は胸へ手を突込むと、愛用のピストルをつかみ出して、畳の上へ置いた。
烏啼は、その方をちょっと睨《にら》んだだけで素知らぬ顔で話をすすめる。
「貫一。この仕事はお寺さまか
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