ことだが、おれはさびしいや」
「全くこの辺は物騒ですから、気をおつけなさい」
 刑事が行ってしまうと、貫一は、
「おれがピストルを持てば天下無敵だと思っていたが、その腕前ももう怪《あや》し気《げ》なもんだ」と歎息した。
 仏像を背負って出て来た貫一を、やはり前四夜と同じように遠方から見咎《みとが》めて駆付けて来る縞馬姿の刑事! 貫一はピストルを握って、刑事の首に覘いをつけた。今夜は思い切って刑事の首を飛ばしてやろうと考えたのだ。
 だが彼はその寸前に思い停って、もう一度右腕を覘って、一発ぶっ放した。すると刑事は蝙蝠のような恰好をしてとび上ったと思うとその場にぱったり倒れた。彼の右腕は、彼の身体から二メートルも離れたところに転がっていた。
 貫一は、傷つける刑事の傍に寄った。刑事は虫の息だった。貫一は、むらむらとして、ピストルを取直すと、刑事の心臓に覘いをつけた。……が、間もなく彼は周章《あわ》ててピストルを持った手をだらりと下げた。
「……おれが二発目を発射するような気になるなんて、もう焼きが廻ったんだ。ピストルも、今夜かぎり、お別れだ」
 そういうと貫一は、ピストルを空高く投げた。や
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