左脚がちょん切れている。当人は虫の息だ。なまぐさい血の海。――あと二三十分の寿命《じゅみょう》だろう。南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》」
 貫一は安心をして、その場を立った。
 烏啼の館に、四体の仏像が集った。烏啼はいつもの口癖で、なにかなかったかと訊いたが貫一はいつもの口癖で、異状なしと答えた。


   弥陀本願《みだほんがん》


 いよいよ大願成就《たいがんじょうじゅ》の第五夜となった。
 今宵のお寺は、練馬《ねりま》の宇定寺《うていじ》で、覘う一件は、唐の国から伝来の阿弥陀如来像《あみだにょらいぞう》であった。月はかなりふくらんで中天に光を放ち、どこからともなく花の香のする春の宵であった。
 またもや縞馬姿の刑事が、森蔭を出て、煙草の火を借りに来たのには愕くよりも呆《あき》れてしまった。
「君は、たしかに毎晩出て来る男に相違ないよ。君は幽霊かい」
「冗談じゃないですよ。私はこのとおりぴんぴん生きています」
 刑事は、貫一の前で地響をたてて四股《しこ》を踏み、腕を曲げてみせた。なるほど幽霊ではなさそうだ。
「でも変だね。たしかに命中して腕をとばし脚を千切り……いや、これはこっちの
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