いながら、千切れた脚をつかんで頭の上にさしあげたと思うと、ぱったり倒れて動かなくなった。――貫一は、ざまを見やがれと捨台辞を残して、その場を退散した。
 烏啼の館に、尊い仏像は三体も集った。
「異ったことはなしか、今夜はいやに顔色が良くないが……」
 と烏啼が訊いたが、貫一は例によって異状なしと頑張った。
 第四夜は世田谷《せたがや》方面だった。
 さすがの貫一も、その夜は少々気味が悪くて、足がいつものように楽に進みはしなかった。
「旦那。すみません、煙草の火を貸して下さい。すみません」
 又もや同じような服装の刑事に違いない男が寄って来た。
「君は毎晩おれのところへ火を借りに来るじゃないか」
 と、貫一はもうたまらなくなって、前後の見境もなく、そんな言葉を吐いてしまった。
「えっ、何ですって、毎晩旦那の前に私が現われますって。へッ、冗談じゃありませんよ、お目に懸《かか》るのは今夜が始めてで……」
 刑事は、そういって否定した。貫一の予期したとおりであったので、彼はほっとした。かの刑事が立去る後姿を、貫一は注意力を傾けて見ていたが、それは満足すべきものであった。なぜなれば、もし彼の刑事
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