癪《しゃく》にさわった。背中に大きなものを背負っているから駆け出すわけにもいかない。ぐずぐずしていりゃあの若い奴に締められちまう。貫一の決心はついた。いきなりピストルを取出すと、がっちり覘《ねら》ってぷすンと一発――消音装置がしてあるから、音は低い。
きゃッと、のけぞってぶっ倒れる刑事。そのとき貫一は、はっきり見た――彼の放った一弾は、刑事の右腕に命中し、そして二の腕あたりからもぎとって、すっとばしてしまったことを。
「ざまあ見やがれ。雉《きじ》も鳴かずば撃たれめえ。腕を一本放しちまえば、あとは出血多量で極楽へ急行だよ。じゃあ刑事さん、あばよ」
貫一は、窮屈《きゅうくつ》な恰好で捨台辞《すてぜりふ》を重傷の刑事に残し、すたすたといってしまった。
貫一は射撃に自信と誇りとを持っていたから、彼は未だ曾《かつ》て、狙った相手に対し、二発目をぶっ放したことがなかった。一発で沢山なのである。一発でもって、間違いなく、覘ったところへ弾丸を送りこんでしまうのが自慢だったし、確かにその通りで覘いが外《はず》れたためしがない。
彼は揚々《ようよう》と烏啼の館へ立ち戻った。秘仏は彼の肩から下ろされ
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