目《でたらめ》をいった。
「そうですかい。この辺は物騒《ぶっそう》ですから、気をおつけなさい」
「お前さんは物騒でないのかい」
 と貫一は、ちょっとからかった。
「とんでもない。私は刑事ですよ」
「刑事? ははン、それはどうも……」
「じゃあ、気をつけてお出でなせえ、さようなら」
 縞馬《しまうま》の刑事は、向こうへすたすたといってしまった。後に貫一は、忌々《いまいま》しげに舌打をした。
 さあ仕事だ。今のうちに早いところ仕留めて置こうと、貫一はそれから森の中へ入っていった。
 二十分ばかり経つと、森の奥から、背中にむしろ包みの秘仏《ひぶつ》酒買の観世音菩薩の木像をしばりつけた貫一の姿が現われた。これは至極やさしい窃盗で得たもの、坊主たちは本堂をからにして奥へ引込んでどぶろくを沸かし、ダンス・レコードをかけてわいわいやっていた。その隙間に、至極かんたんに頂いて来たもの。
「待てッあやしい奴……」
 いきなり暗闇から、月光流れる街道の真中へとび出した人影。ばらばらとこっちへ駆けてくるところを、貫一が透《す》かしてみると、何のこと、さっき名乗った縞馬の刑事野郎であった。
 無体《むたい》に
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