さすが猫々先生だけあって御名案です。恐れ入りました」
「ですから私はこれから事務所へ戻りまして、夫人をお連れして早速ここへ引返して参ります。暫時お待ち下さい」
探偵は慇懃《いんぎん》に、そして自信に満ちた声でいった。
その言葉に間違いはなかった。それから三十分間後に、繭子夫人は無事苅谷邸へ帰着したのだった。氏は安心したし、夫人は薔薇色《ばらいろ》の頬を輝かして夫君に抱きついた。
これで繭子夫人誘拐事件はもうすっかり片づいた――ようではあるが、実はまだ少し語るべきことが残っている。
4
疲れ切って自分の事務所に戻った探偵袋猫々だった。
表戸の鍵をおろし、その他あらゆる出入口は厳重に閉め切った上で、彼は素裸となってゆっくりバスの中に身体をつけた。
硝子のように青く色のついた湯の、ぬくもりが、快く彼の全身をもみ、この数日間の疲労を吸い取ってくれる。
「ええと、一番始めはどうだったかな」
彼は湯槽《ゆぶね》の中に伸び切った自分の身体をいたわりながら、この事件を頭の中で復習し始めた。それは彼のいつもの癖で、事件が終ると必ずこうするのだ。
彼の追憶は、時間の軸の上
前へ
次へ
全17ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング