れがね予想に反しましてね、烏啼は最初私を後宮へ連れこむまでは居ました。しかしすぐどこかへ行ってしまって、それ以来今に至るまで、烏啼とは顔を合わさないのです。ですから彼奴を相手に目論《もくろ》んだこともあったのですが、そういう次第で実行にうつさないでしまいました」
「それくらいの穏健《おんけん》な勤めなら、なにも家内を隠すほどのこともなかったですね」
「いや、そうでもありませんよ、苅谷さん。大事な奥さまを一度あの後宮の空気で刺戟した日にゃ、失礼ながらあなたは永生きが出来ませんよ。――それはそれとして、私は烏啼について新しく語るべきものを持って帰りました」
「お土産《みやげ》ですか」
「正にお土産です。帰り際になると、私は女執事からこのような立派なダイヤ入りのブローチを貰《もら》いました。小さいけれどこれは間違いなくダイヤモンドです。かの女執事のいうことには、これは主人があなたへのお支払としてお渡しするものだから持って帰るようにといわれました。つまり三日間の勤務に対する代償だというんです」
「いいブローチですね」
「かねて烏啼天駆は、掏摸《すり》といえども代償を支払うべしとの説をかかげてい
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