たことはありません。文字通り心身共に破滅に瀕するという始末です」
「一体どうしたというわけですか。誘拐された先で、どんな目にお遭いなすったんで……」
探偵猫々はそれには応えず、瞑目《めいもく》したまましばし額《ひたい》をおさえていた。彼はその恐ろしかりし責苦の場面をまた新しく今目の前に思い出したのであろう。ややあって探偵は目を明いた。そして吐息《といき》と共に語り出した。
「……それがですよ、苅谷さん。私は烏啼天駆に拐《かどわ》かされて、彼奴の後宮《ハレム》へ入れられちまったんです。もっとも私の役は、後宮の一員として彼奴に仕えることでなく、実は後宮の美女たちに仕える女の役を仰せつかったんです。三日間というものを、私は働かされましたよ。考えてもみて下さい、女に限りいいつけられる雑用を美女の傍近くで三日間相勤めたんですからね。身は朽木《くちき》にあらずです。いや全く幾度か窒息しそうでしたよ。生きてここへ戻って来られたのは何んという奇蹟!」
探偵猫々は大汗をかいて怪話を語る。
「結構な話じゃありませんか」
と苅谷氏が目を細くした。
「で烏啼天狗はどんなことをやらかして居ましたか」
「そ
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