、やったな)
 第五景「山賊邸展望台」の幕はスルスルと下《お》りた。
 舞台裏には異様《いよう》な混乱が起っているようだった。
 観客は何事とも知らぬながら、少しずつざわめいてきた。
 緞帳《どんちょう》が大きく揺れて、座長の丸木花作が、鬘《かつら》だけ外《はず》した舞台姿のままで現れた。
「皆さん。お静かに願い上げます。唯今《ただいま》女優が一人、急病で亡《な》くなりました。しかしもう事は済みましたから、御安心の上、お仕舞《しまい》までごゆるりと御見物願います。では直ちに第六景、『奈良井遊廓』の幕をあげます」
 うわーッと何も知らない観客は拍手した。
 座長が引込むと、緞帳は別に何事もなかったかのように、スルスルと上へ昇っていった。そして賑《にぎや》かな囃《はやし》の音につれて、シャン、シャンと鳴る金棒《かなぼう》の音、上手《かみて》から花車《だし》が押し出してきたかのように、花魁道中《おいらんどうちゅう》が練《ね》り出《だ》してきた。
 提灯持《ちょうちんも》ちが二人、金棒引《かなぼうひき》が二人、続いて可愛らしい禿《かむろ》が……。
「呀《あ》ッ」
 と大声で叫んだのは、客席のQ
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