よし、撃て――といえ)
 というサインだ。鯛地は豪胆《ごうたん》にも尚も柳ちどりを電話機に釘止《くぎど》めにして置こうと努力した。
「柳ちどりさんに、いいものを進呈――」
 撃て、――という命令は、屋根裏の同志の耳に達して、スワと機関銃の引金を引いた。
 どどどどどどどど、どどどどどどどッ!
 霰《あられ》のような銃丸《じゅうがん》が、真白な煙りをあげて、向いの窓へ――
 柳ちどりは、声を立てる遑《いとま》もなく全身を蜂《はち》の巣《す》のように撃ち抜かれ、崩《くず》れるように電話機の下にパタリと倒れた。
「命中したぞォ」
 それが同志への最後の報告だった。
 次の瞬間に、屋根裏の機関銃手も公衆電話室甲乙の黄外套《きがいとう》も、それから又、同志帆立も、飛鳥《ひちょう》の如く現場から逃げ去った。
 恐ろしい暗殺状況《あんさつじょうきょう》だった。


     10[#「10」は縦中横]


 落ち着かぬ心を、客席に強いて落ち着かせようと努力しているQX30[#「30」は縦中横]の笹枝弦吾だった。
 どどどどどどッ。
 がたーン。
 という異様な物音を余所《よそ》ながら聞いた。
(ウッ
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