そういった屋根裏の青年の前には一台の機関銃が壁穴《かべあな》を通して外を覗《のぞ》いている。いつでも引金が引ける、この機関銃の銃口は、向いの高い建物の三階に、ポッカリ開いた窓に向けられている。もっと精確に云うと銃口は、向いの窓の内から見える壁掛《かべかけ》電話機を覘《ねら》っているのだった。――その電話機は、受話器が紐《ひも》のままダラリと下っていた。思うに、電話で呼出された人を探しに行っているものらしい。
 五秒、十秒、十五秒。
 向うの窓に、一人のレビュー・ガールが現れた。頭が痛いのか、左手で圧《お》さえている。
「はァ、モシモシ」
 と、その美しいレビュー・ガールは電話口の前で唇を動かした。
「ああ、もしもし」レビュー・ガールの電話に答えたのは、意外にも区裏の公衆電話の乙の方を占領している黄外套の同志だった。
「もしもし。あんたは、柳ちどりさん?」
 同志の声は悠々と落着いている。それもその筈、一方の旗頭UX3鯛地秀夫《たいちひでお》だったから。
「ええ、そうよ」と女が云った。
 鯛地秀夫は、ツと手をあげて、隣の公衆電話甲の同志QX7左馬三郎《さまさぶろう》へ合図をした。

前へ 次へ
全28ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング