のうちに、ねじこんだ。
帆立はフラリと席を立った。
一つ大きな欠伸《あくび》をすると、ディ・ヴァンピエル座の木戸口を出ていった。レビュー館の向うの角を曲《まが》ると急に歩調を速めて、かねて諜《しめ》し合せて置いたR区裏の二つ並んだ公衆電話函のところへ……。
9
公衆電話室には、既に黄色の外套を着た青年が二人、別々に入って居《お》った。サインを送られたのでQZ19[#「19」は縦中横][#「QZ19」は底本では「QX19」]は直ぐに「柳ちどり」の名前の入った紙片を手渡した。
「すみませんでしたね。まァこっちへ入り給え」黄色い外套を着た同志は云った。
其時《そのとき》この二つの公衆電話の甲乙とも相手のベルが喧《やかま》しく鳴っていた。
甲の方の電話は、一町半ほど先の洋食屋の屋根裏へ繋《つなが》っていた。
「オイ、どうだ」と向うから声がした。
「もう直ぐ出て来るから、うまく演《や》れよ」と、こっちから黄色い外套の同志が稍《やや》震《ふる》え声で云った。興奮に慄《ふる》えているのだった。
「ウン、しっかり演ってみせるぞ。安心せい。相手を確めたら直ぐ報《しら》せろ!」
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