X30[#「30」は縦中横]の弦吾《げんご》だった。
 見よ、確かに死んだ筈の義眼の副司令が、真紅な禿《かむろ》の衣裳を着て、行列の中を歩いているのだ。これが驚かずにいられようか。
「シ、しまった!」
 と気がついたときは、もう既に遅かった。隣席の五十坂を越したと思う男が、年齢《とし》の割には素晴らしい強力《ごうりき》で、弦吾の利腕《ききうで》をムズと押えた。
「話は判っている筈《はず》だ。さア静かに向うへ来給え」
 その一語で、すべては終った。魚眼《ぎょがん》レンズを透《とお》した写真を調べてみるまでもなく、大声をあげたりして、もう明瞭《めいりょう》な失敗をしたQX30[#「30」は縦中横]だった。もう再度《さいど》、生きて此のレビュー館は出られなくなった。
 万事《ばんじ》休《きゅう》す!
     *
 義眼の副司令の女を、柳ちどり[#「柳ちどり」に丸傍点]と思っていたのは笹枝弦吾の惜《お》しい誤解《ごかい》だった。柳ちどりは確かに機関銃で殺された踊り子だった。この柳ちどりは、第五景に出る段になって、急に烈しい頭痛に襲われたのだった。出場は迫《せま》るし、遂《つい》に已《や》むな
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