ですもの。それにあんただって、なるたけ色っぽい女房に見える方が好きなんでしょ」
「……」
「ねェ、黙ってないで、お返事をなさいってば。――あんた怒っているの」
「莫迦《ばか》ッ。だ、だれが怒ってなぞいるものかい」
男は興奮の様子で、襖に手をかけた。
「ああ、駄目よォ、あんたア……」
房子は双膚《もろはだ》ぬいだまま立ち上って、内側から、襖をおさえた。
「いいじゃないか」
「だめ、だめ。駄目よォ」
髪が結《ゆ》えたのか、しばらくすると箪笥《たんす》の引出しがガタガタと鳴った。そして襖の向うからシュウシュウと、帯の摺《す》れる音が聞えてきた。もうよかろうと思っていると、こんどはまた鏡台の前で、コトコトと化粧壜らしいものが触れ合う音がした。
「どうもお待ちどおさま。――アラあたし、恥かしいわ」
さっきからジリジリしながら、長火鉢のまわりをグルグル歩きまわっていた男は飛んでいって、襖をサラリと開けた。
「アアアア――」
房子は薄ものの長い袖を衝立《ついたて》にして、髪を見せまいと隠していた。
「あッ、素敵。――さあ、お見せ」
「ホホホホ――」
「さあお見せ、といったら」
「髪がこわれ
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