て立ちふさがった。
「あんたは出ちゃいけない。なんでもよいの。あたしが話をつけるから……」
 そういっているとき、入口の幕をおし分けて、五十がらみの大きな男の顔がヌッと現われた。彼の顔は、渋柿のように真紅《まっか》であった。
「いやあ、これはお安くないところをお邪魔|仕《つかまつ》りまして、なんとも相済みません、ねえ、こちらの御主人さんへ――」
 五十男は、不貞不貞《ふてぶて》しい面つきで、ノッソリ中へ入ってきた。
「き、君は何者だ。ここは僕の住居だ。無断で入ってくるなんて、君は――」
「はッはッはッ、無断で無断でと仰有《おっしゃ》りますが、実はこのことについて貴公《きこう》に伺いたいのだ」
「なんだとォ――」
 と、杜も強く云いかえした。
「フン、お千がたいへんお世話になっていまして、お礼を申上げますよ。貴公は、人の女房にたいへんに親切ですネ」
「なにッ――では君は」
「もちろんお察しのとおり、私はお千の亭主でさあ。区役所の戸籍係へ行って調べてきたらいいだろう。よくも貴公は、――」
「ああ、そうだったか。貴方《あなた》は、死んだことと思っていたが――」
「ちゃんと生きていらあ。貴公に
前へ 次へ
全93ページ中66ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング