もそれがよく見えるだろうが。さあどうしてくれる」
「さあ――」
 といっているところへ、表の方で、なんだか意味はわからないが、呼んでいるような声がした。すると五十男は、急に慌《あわ》てだし、
「ちえッ。――まあそのうち、改めて来るから、そのときは性根《しょうね》を据《す》えて返答をしろ、いいかッ」
 と云い捨てて、裏の便所の方から、大狼狽《だいろうばい》の態で出ていった。杜はホッと溜息をついた。
 お千も同じように、ホッと吐息をついた。そして彼の方に媚《こ》びるような視線を送って、
「――あいつは悪い奴なのよ。あたしの本当の亭主じゃなくて、その前にちょっと世話になっていた麹町《こうじまち》の殿様半次という男なのよ。明るいところへ出られる身体じゃないんだけれど、どういうものか今は飛びあるいていて、きょう昼間、運わるくあたしを見かけて因縁《いんねん》をつけに来たのよ。あなた心配しないでネ」
「でも、こうなっては僕も――」
「心配いらないのよ。あたしに委せて置いてちょうだいよ」
「そうだ、丁度会社の方も仕事を始めて、給料をくれることになったから、どこか焼けていない牛込《うしごめ》か芝の方に家
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