片手に、その激しい音を聞きながら、あたりに注意を払っていた。――お千は絶対無我の境地にあるような姿勢をしていた。
杜はその夜、小屋にかえってから、遂にお千の身体を知った。
志操堅固な杜だったけれど、どういうものかその夜の尿の音を思いだすごとに、彼はどうにも仕方のない興奮状態に陥ってしまい、その後もその度に、彼は哀れな敗残者となることを繰りかえした。
十七日から、彼は丸の内へ出勤することになった。商会は焼け跡に、仮事務所を作り、再び商売に打って出ることになったからである。
「ね、早く帰って来てネ。後生《ごしょう》だから……」
とお千は杜の出勤の前に五度も六度も同じことを繰返し云った。
「うん、大丈夫だ。早く帰ってくる。――」
そういって出かけたが、彼の帰りは、いつも日暮時になった。
お千は門口に彼の帰ってきた気配がすると、子供のように小屋の中から飛んで出て来た。そして半泣きの顔にニッと悦びの笑《え》みを浮べ、そしてその後で決ったように大きな溜息をつくのであった。いつもきまってそのようであった。
「きょうネ」とお千は或るとき彼を迎えて夕炊《ゆうめし》の膳を囲みながらいった。
「
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