云った。お千は、ちょっと待ってと云いながら、ビールを売る店のお内儀《かみ》にコソコソ耳うちしてそのうしろの御不浄に出かけた。
やがて二人は、小暗い道を、ソロソロ元来た方に引返していった。
雷門を離れると、もう真暗だった。そこで買って来た提灯をつけたお千は吾妻橋の脇の共同便所の前で、杜を待たせて置いて、また用を達しに入った。
吾妻橋は直したと見えて、昨日よりも遥かに安全に通りやすくなっていたが、それでも提灯の灯があればこそ僅かに通れるのであった。しかし夜のこととて、壊れた橋の態《さま》やら、にごった水の面などが見えなくて、かえってよかった。
橋を渡りきって、石原の大通りを二人が肩を並べて歩いているときのことだった。
「ねえ、あんたァ。あたしどうも辺なのよ。またおしもに行きたくなった」
「フフン、それはビールのせいだろう」
「いいえ、けさからそうなのよ。とてもたまらないの。また膀胱《ぼうこう》カタルになったと思うのよ。――」
とまで云ったお千は、急に身体をブルブルッと慄《ふる》わせた。そして彼に急を訴えると、その場にハタとしゃがんで、堤を切ったような音をたてて用を達した。杜は提灯
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