れを輪切りに赤いところを見せている店、小さい梨を売る店――などと、食い物店が多かった。
 蝋燭は、仁王門を入ったところの店に売っていた。杜はお千と相談して、五銭の蝋燭を四本と、その外に東北地方から来たらしい大きな提灯《ちょうちん》一個八銭とを買った。
「おお、生ビールがあるじゃないか。こいつはいい。一杯やろう」
 杜は思いがけない生ビールの店を見つけて舌なめずりをした。彼はお千を手招きして、二つのコップの一つを彼女に与えた。杜の腸に、久しぶりのアルコールがキューッと浸《し》みわたった。なんとも譬《たと》えようのない爽快さだった。
 彼は更にもう一杯をお代りした。
 お千はコップを台の上に置いて、口をつけそうになかった。
「お呑みよ。いい味だ。それに元気がつく」
 そういって杜はお千にビールを薦《すす》めた。お千は恐《おそ》る恐《おそ》るコップに口をつけたが、やはりうまかったものと見え、いつの間にかすっかり空けてしまった。しかしもう一杯呑もうとは云わなかった。
 三ばいの生ビールが、杜をこの上なく楽しませた。思わない御馳走だった。震災以来の桁ちがいの味覚であった。彼はお千に、では帰ろうと
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