毎日毎日、宿泊所の朝が来ると、二人は連れだってそこを出た。それから杜は、ミチミと房子との二重の名のついた「尋ね人」の旆《はた》を担いで、避難民の固まっているバラックをそれからそれへと訪ねていった。お千は、まだ癒《なお》りきらぬ左の腕に繃帯を巻いたまま、どこまでも杜の後につき随《したが》って行った。
 そうして九月一日から数えて、十二日というものを、無駄に過ごした。杜の心は、だんだん暗くなっていった。それと反対に、お千の気持はだんだん落ちつきを取りかえし、日増しに元気になって、古女房のように杜の身のまわりを世話した。
 それは丁度九月十三日のことであった。
 杜はいつものように、お千をともなって、朝早くバラックを出た。その日はカラリと晴れた上天気で、陽はカンカンと焼金《やきがね》くさい復興市街の上を照らしていた。杜は途中にして、ミチミの名を書いた旆を、宿に置き忘れてきたことに気がついた。しかしいまさら引返すほどのこともないと思った。でもそのときは、まさかそれが、泣いても泣ききれぬ深刻なる皮肉で彼を迎えようとは、神ならぬ身の気づくよしもなかった。
 その日、図《はか》らずも彼は、もう死
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