んだものとばかり思っていたミチミに、バッタリ行き逢ったのである。
6
所は焼け落ちた吾妻橋の上だった。
まるで轢死人《れきしにん》の両断した胴中の切れ目と切れ目の間を臓腑がねじれ会いながら橋渡しをしているとでもいいたいほど不様《ぶざま》な橋の有様だった。十三日目を迎えたけれど、この不様な有様にはさして変りもなく、只その橋桁の上に狭い板が二本ずっと渡してあって、その上を危かしい人通りが、いくぶんか賑《にぎ》やかになっているだけの違いだった。
杜は人妻お千を伴って、この橋を浅草の方から本所の方へ渡っていた。なにしろ足を載せる板幅がたいへん狭く、その上ところどころに寸の足りないところがあって、躍り越えでもしないと前進ができなかった。杜は肥《ふと》り肉《じし》の凡《およ》そこうした活溌な運動には経験のないお千に、この危かしい橋渡りをやらせるのにかなり骨を折らねばならなかった。
「さあ、この手につかまって――」
と、杜が手を差出しても、お千はモジモジして板の端にふるえているという始末だった。そのうちに彼女は、水中に飴のように曲って落ちこんだ橋梁《きょうりょう》の間から下
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