ぶされた蟇《がま》のようにグシャリとなっていた。溝のなかには馬が丸々としたお臀《しり》だけを高々とあげて死んでいた。そうかと思うと、町角に焼けトタン板が重ねてあって、その裾から惨死者と見え、火ぶくれになった太い脚がニョッキリ出ていた。お千はそれを見ると悲鳴をあげて、彼の洋服をつかんだ。
 杜は、胸のなかでフフフと笑った。この女とても、自分が通りかからねば、あのようなあさましい姿になっていた筈だのに、それを怖がるとはなんということだろう、と。
 彼はふたたび焼野原の銀座通へ出て、それからドンドン日本橋の方へ歩いていった。おどろいたことに、正面に見たこともない青々とした森が見えたが、これがよく考えてみると、上野の森にちがいなかった。なにしろこの辺は目を遮《さえぎ》るものとてなんにもないのであった。――ああ今頃、ミチミはどうしているだろう。
「さあ、接待だ、遠慮なく持っていって下さい」
 と、路傍の天幕《てんまく》から、勇ましい声がした。
 杜がその方をみると、向う鉢巻に、クレップシャツという風体の店員らしいのが飛び出して来て、
「さあ、腹を拵《こしら》えとかにゃ損ですよ。――お握飯をあげま
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