うまくはき直していた。
杜は焼け土の上を履《ふ》んで、丸の内有楽町にあった会社を探した。
すると不幸なことに、会社は、跡片もなく灰塵《かいじん》に帰していた。そしてその跡には、道々に見てきたような立退先の立て札一つ建っていなかった。
やむを得ず杜は、名刺を一枚だして、それに日附と時間とを書きこみ、それから裏面に「横浜税関倉庫ハ全壊シ、着荷ハ三分ノ二以上損傷シタルモノト被存候《ぞんぜられそうろう》」と報告を書きつけた。それをすぐ目に映るようにと、玄関跡と覚《おぼ》しきあたりに焼け煉瓦を置き、その上に名刺を赤い五寸|釘《くぎ》でさしとおし焼け煉瓦の割れ目へ突きたてようとしたが、割れ目が見つからない。
「あのゥ、こっちの煉瓦の方に、丁度いい穴が明いていますわよ」
後ろをふりかえってみると、例の手首を引張りだしてやった女が、煉瓦の塊をもって、ニヤニヤ笑っていた。
「すいません」
といって、杜はその煉瓦をひったくるようにして取った。
杜と人妻お千とは、また前後に並んで歩きだした。――電車が鉄枠ばかり焼け残って、まるで骸骨《がいこつ》のような恰好をしていた。消防自動車らしいのが、踏みつ
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