の手首の皮が手袋をぬいだように裏返しに指先から放れもやらずブラ下っているのであった。皮を剥ぎとられた部分は、鶏の肝臓のように赤むけだった。
 杜は気絶をせんばかりに愕いたが、ここでひっくりかえってはと、歯をくいしばって耐《こら》えた。そして素早く、そのグニャリと垂れ下った女の手の皮を握ると、手袋を嵌《は》めるあの要領でスポリと逆にしごいた。それは意外にもうまく行って、手の皮は元どおりに手首に嵌《はま》った。しかし手首のすこし上に一寸ほどの皮の切れ目が出来て、いくら逆になであげても、そこがうまく合わなかった。――でも女の命は遂に助かったのだ。
 気がつくと、女は気絶していた。
 なにか手首に捲《ま》かなければならないが、繃帯などがあろう筈がない。ハンカチーフも駄目だ。そのときふと目についたのは、この女の膚につけている白地に青い水草を散らした模様の湯巻だった。杜は咄嗟《とっさ》にそれをピリピリとひき裂くと、赤爛《あかただ》れになっている女の手首の上に幾重にも捲いてやった。


     5


 杜がトラックを下りると、お千も突然、あたしも下りると云いだした。
 それは翌九月二日の午前六時
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