って、杜の顔を下から見あげた。
「ああッ、た、助けてえ。お、拝《おが》みます」
 女は躍《と》びかかるような姿勢で、杜の方に、身体をねじ向けた。青白い蝋の塊のような肉づきのいい胸元に、水色の半襟のついた膚襦袢《はだじゅばん》がからみついていた。
「手、手、手だ。手を抜いてください」
 女は両眼をクワッと開いて、彼の方に、動物園の膃肭臍《おっとせい》のように身悶えした。眉を青々と剃りおとした女の眼は、提灯のように大きかった。
 杜は、この女が気が変でないことに気がついた。それで駈けよってみると、なるほど女の身体にはどこも障《さわ》りがないようではあるが、只一つ、左の手首が、倒れた棟木《むねぎ》の下に入っていて、これがどうしても抜けないのであった。
 彼は女の背に廻って、その太い腕をつかんで力まかせにグイと引張った。
「いた、た、た、たたッ。――」
 と女は錐《きり》でもむような悲鳴をあげた。
 杜は愕いて、手を放した。
 女は一方の腕をのばして、杜の洋服をグッとつかんだ。
「待って、待って。……あたしを見殺しにしないで下さいよォ、後生だから」
 杜は、またそこに跼《しゃが》んで、棟木の下
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