ず東京へ電話が通ずるつもりの彼は、万国橋《ばんこくばし》を渡ったところに自働電話函が立っているのを見つけて、そのなかに飛びこんだ。だが受話器をとりあげて、交換手をいくら呼び出してみても、ウンともスンとも云わなかった。
「これは困った。電話が通じない。電話局は電源を切られたのにちがいない」
 彼は仕方なく駅の方へ行ってみることにした。
 万国橋通を本町《ほんちょう》の方へ、何気《なにげ》なくスタスタ歩きだした彼はものの十歩も歩かないうちに、ハッと顔色をかえた。ああなんという無残な光景が、前面に展開されていたことだろう。
 まず、目についたのは、恐ろしいアスファルト路面の亀裂《きれつ》だ。落ちこめば、まず腰のあたりまで嵌《はま》ってしまうであろう。
 その凄《すさま》じい亀裂の上に、電線が反吐《へど》をはいたように入り乱れて地面を匍《は》っていて[#「匍《は》っていて」は底本では「葡《は》っていて」]、足の踏みこみようもない。ただ電柱が酔払いのように、あっちでもこっちでも寝ている。
 もっと恐ろしいものが目にうつった。すぐ傍の二階家が、往来の方に向ってお辞儀をしていた。大きな屋根が地面に衝
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