いった税関吏は、いま何処に居るのであろうか。恐らく倉庫のなかにいた百人にちかい人間が、目の前に崩れ落ちた煉瓦魂の下に埋まっているはずであった。気がついてみると身近には彼と同じように、奇蹟的に一命を助かったらしい四、五人の税関吏や仲仕の姿が目にうつった。彼等はまるで魂を奪われた人間のように、崩れた倉庫跡に向きあって呆然《ぼうぜん》と立ちつくしていた。――
気がいくぶん落ちついてくるとともに、杜は先《ま》ずいまの地震が、彼の記憶の中にない物凄い大地震だったことを認識した。次に、倉庫が潰《つぶ》れて、その下敷になった輸入機械は、すくなくとも三分の二は損傷をうけているだろう、この報告を早く本社にして、善後処置についての指令を仰ぐことが必要だと思った。
彼はすぐ電話をかけたいと思った。それで税関の構内を縫って、どこか電話機のありそうなところはないかと走りだした。
荷物検査所の中に電話機が見つかった。貸して貰うように頼んだところ、この電話機は壊れてしまって役にたたないという挨拶だった。
彼は検査所の電話機が故障である話を聞いても、まだ目下の重大なる事態をハッキリ認識する力がなかった。かなら
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