ぜられた。
 そのとき杜は、死にものぐるいで立ち上った。こんなところに、ぐずぐずしていては、いつどき煉瓦壁に押しつぶされるか分ったものではない。
 彼はズキズキ痛む脚を引き摺って、それでも五、六歩は走ったであろう。すると運わるく石塊に躓《つまず》いた。そして呀《あ》ッという間もなく、身体は巴投《ともえな》げをくったように丁度一廻転してドタンと石畳の上に抛《ほう》りだされた。
 大崩壊の起ったのは、実にその直後のことだった。大地を掘りかえすような物凄い音響と鳴動とに続き、嵐のような土煙のなかに、彼の身体は包まれてしまった。彼は生きた心地もなく、石油の空き缶を頭の上から被ったまま身体を丸く縮めて、落ちてくる石塊の当るにまかせていた。
 暫くしてあたりが鎮まった様子なので、彼はこわごわ石油の空き函のなかから首をあげてみた。すると愕いたことには、今の今まで、そこにあった地上五十尺の高さを持った大倉庫は跡片もなく崩れ落ちて、そのかわりに思いがけなく野毛《のげ》の山が見えるのであった。ああ、倉庫の中にいた人たちは、どうしたであろうか。彼のために、外国から到着した機械の荷を探すために、奥の方へ入って
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