突して、ところどころ屋根瓦が禿《はげ》たように剥がれている。四五人の男女がその上にのぼって、メリメリと屋根をこわしている。――「このなかに、家族が三人生埋めになっています。どうか皆さんお手を貸して下さい。浜の家」
 三人が生き埋めに?
 杜は、これは手を貸してやらずばなるまいと思った。四、五人の力では、この潰れた大きな屋根が、どうなるものか。
 と、突然向うの通りに、叫喚《きょうかん》が起った。人が暴れだしたのかと思ってよく見ると、これは警官だった。
「オイ火事だ。これは、大きくなる。オイ皆、手を貸してくれッ」
 どこでも手を貸せであった。見ると火の手らしい黄色い煙が、横丁の方から、静かに流れてきた。
「オイ火事はこっちだッ」
「いや、向うだよ」
「いけねえ、あっちからもこっちからも、火事を出しやがった」
「おう、たいへんだ。早く家の下敷になった人間を引張りださないと、焼け死んでしまうぜ」
 誰も彼もが、土色の顔をして、右往左往していた。悲鳴と叫喚とが、ひっきりなしに聞えてきた。大きな荷物を担いで走る者がある。頭部に白い繃帯をまいた男を、細君らしいのが背負って駈けだしてゆく。
 杜はは
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