いのですよ」
「ふーん、そうか」
田鍋課長は、満面を朱盆《しゅぼん》のように赭《あか》くして、膝を叩いて呻《うな》った。
「ね、課長さん。さっきあなたから伺《うかが》った話から誘導《ゆうどう》すると、その美貌の男こそ、烏啼天駆《うていてんく》でなければならないと思うんですが、課長さんの意見は如何ですか」
帆村は、大胆なことをいった。
「そうかもしれない。いや、それに違いない。あれが烏啼なら、あのとき逃がすんじゃなかった。で、女は何者か」
「それが分らないのです。しかしですよ、この事件の主軸《しゅじく》には、二つの者が功を争っていることは、僕も察していました。例えばあの紛失鞄の新聞広告のことですね。
あの広告主の一人は烏啼天駆であり、もう一人はやっぱりあの女だったんですよ」
「ふうん、なるほど、そういえばそうかもしれない」
「あの二人は、時に一緒になって働きました。その例は、博士から鞄を奪《うば》ったときなんかがそれです。それでいて、二人は大いに睨《にら》み合《あ》っていたんですね。だから博士邸のピストルさわぎも起った。あれはお化け鞄が紛失したのに困った烏啼が、小山すみれを唆《そそ》
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