ってしまったんだそうです」
「どうしたのだろう」
「女の膝から博士の膝へ、或る麻薬《まやく》の注射が施《ほどこ》されたんでしょうね。博士は、そういえばちくりとしたようだといっています。――それから博士は、意識の朦朧《もうろう》たる裡《うち》にも、膝の間に挟《はさ》んでいた鞄が掏《す》りかえられるのに気がついたそうです。しかし声を出そうにも手をあげようにも、どうにもならなかったそうです。そしてそのうちに何もかも分らなくなった……」
「怪しい奴は、すると男と女と二人組なんだね」
「そうなんです。これが頗《すこぶ》る重大な事柄《ことがら》なんですが、田鍋さん、博士はその男女の顔をよく覚《おぼ》えているといって、人相を話してくれましたが、男も女もなかなか目鼻の整《ととの》った美しい人物だったといいますよ」
「えっ、何という。美男美女だって?」
「正に美男美女なんです。そしてそれがですよ、ほら博士邸が焼けた晩ね、あの晩に研究室にいて小山すみれを相手にしていた若い美貌の男――万沢とかいいましたね――あの男とそれから後にピストルを持って現われた美人がありましたね、あの女と、この両人《りょうにん》らし
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