鞄らしくない鞄
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)寒波《かんぱ》のために

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)事件|引継簿《ひきつぎぼ》

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(例)[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
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   事件|引継簿《ひきつぎぼ》


 或る冬の朝のことであった。
 重い鉄材とセメントのブロックである警視庁の建物は、昨夜来の寒波《かんぱ》のためにすっかり冷え切っていて、早登庁《はやとうちょう》の課員の靴の裏にうってつけてある鋲《びょう》が床にぴったり凍《こお》りついてしまって、無理に放せば氷を踏んだときのようにジワリと音がするのであった。朝日は、今ようやく向いの建物の頭を掠《かす》めて、低いそしてほの温い日ざしを、南向きの厚い硝子《ガラス》の入った窓越しにこの部屋へ注入して来た。
 そのとき出入口の重い扉がぎいと内側に開いて、肥《こ》えた赭《あか》ら顔の紳士が、折鞄を片手にぶら下げて入って来た。
 課員たちは一せいに立上って、その紳士に向って朝の挨拶《あいさつ》をのべた。みん
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