かま》わず、帆村は課長の耳に囁《ささや》いた。
「今見たでしょうね、あの仔猫を……。仔猫を博士の人形の中に入れると、あのとおり博士の人形はふわふわと空中に浮きあがって天井に頭をつかえてしまった」
「ええッ、あれは人形か。人形だったのか」
課長は唖然《あぜん》として、目を天井へやる。
「田鍋さん。あの女はやっぱり猫又《ねこまた》を隠していたんですよ。そして博士の人形を作ったり、その他へんな装置をつけたりして、一体何をするのか、このへんで中へ踏込《ふみこ》んだら、どうです」
「うん。しかし、もうすこし見ていよう」
「課長。一度下りて下さい、肩の骨が折れそうだから」
「これ大きな声を出すな。家の中へ聞えるじゃないか」
上と下との掛け合いが、だんだん尖鋭化《せんえいか》して来た折《おり》しも、思いがけないことが、室内に於《おい》て起った。
というのは、突然に――全く突然に、どこからとび出したのか、一人の若い女人《にょにん》が、部屋の隅に現われた。彼女の手にはピストルが握られていた。ピストルは小山すみれと美貌《びぼう》の青年とに交互《こうご》に向けられている。
美貌の青年が両手をあげた。
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