、くるりとこっちへ向き直ったと思うと、彼女の手に一疋の仔猫《こねこ》があった。それをきっかけに美貌の青年も、廻れ右をして、仔猫を見ることを許された。
 小山嬢は、頬《ほお》のあたりにいきいきとして血の色を見せながら、その仔猫を抱いて、博士の首吊《くびつ》り死体の傍《そば》へ寄った。そして博士の服の胸を開くと、その中へ仔猫を入れて、しばらくなにかごそごそやっていた。そのうちにそれが終ったと見え、彼女は博士の胸の釦《ボタン》をかけて身を引いた。
 するとふしぎなことが起った。博士の死体が椅子からふらふらと立上ると見るや、なおそれはふわふわ上へ上って行く。博士の首にからみついている綱がだらりと下へ下る始末。そのうちに博士の死体は、頭を天井にこつんとぶつけ、天井に吸いついたようになってしまった。両脚――いや両のズボンに重い靴をくっつけたのが、ぶらんぶらんと振子運動をつづけている。
 帆村は、たまりかねたように、課長の首へ手をかけて引き寄せた。
「あっ、苦しい。一度下りて下さい」
「こっちもそう願いたい」
 叫んだのは帆村ではなく、帆村と課長を肩車に載《の》せている二人の部下だった。それには構《
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