悪《ぞうお》の気も見えない。
とうとう赤見沢博士は、背広姿のまま、室内にぶら下った。博士の足が、実験台よりもすこし高くなったところで、小山嬢は、手にしていた綱《つな》を壁際の鉄格子《てつごうし》にしっかりと結びつけた。そして首吊り博士の下までやって来て、美貌の男の方へ何とかいって、博士の足を指した。
田鍋課長は先刻から愕《おどろ》きの連続で、息が詰まる想《おも》いだった。かねて怪しいと睨《にら》んでいた小山すみれが、博士の首に綱をかけてくびり殺すところをまざまざと見せられ、全身の血は逆流した。現行犯にしても、これほど鮮かに恐ろしい現行犯を見たことは、今までにないことだった。彼は、自分が部下の肩車に乗っていることを忘れて、窓を叩き割ろうとして、帆村に停《と》められた。
「ちょっと、静かに……」
帆村は、室内を指した。
小山嬢は博士のズボンを手にとって、ズボンの裾《すそ》を持ち上げた。
奇怪なことに、そのズボンには脚《あし》が入っていなかった。つまりズボンだけであった。
小山嬢は、実験台の下に跼《しゃが》むと、間もなく台の上に大きな靴を持出した。彼女はそれを博士のズボンの下のと
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