は、田鍋課長と考えを異《こと》にしていた。
 広告主の一人は目賀野だと課長は推定している。しかし帆村は、そうでないと思っていた。なぜならば、目賀野ならば一度もそのお化け鞄を手にとって見たことがないから「特別美|且《かつ》大なる把柄あり」などというその鞄の特徴を知っている筈《はず》がない。だから目賀野ではないと思われる。
 しからば二人の広告主は何者か。
 酒田であろうか、外濠《そとぼり》の松並木の下を歩いていた男であろうか。いやいや、そのどっちでもない。新聞広告の出たのは、彼らがお化け鞄に始めてめぐり合ったどりもずっと以前のことになる。
 トランクをトラックに受取って走ったそのトラックの運転手でもないことは、彼が酒田と満足すべき取引をしたことを考えれば、すぐに分る。では、新宿の露店《ろてん》で、この鞄を店に並べて売っていた店員であろうか。いや、彼でもなさそうである。なぜならば三行広告代金と鞄の値段とは殆んど同じであるので、広告を出したとて大抵《たいてい》戻って来ないことが分っているのに広告をする筈がないと思われる。
 すると、広告主はもっと以前から、このお化け鞄に関係していた人物に違い
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