かた》なく消え失せていた。課長の当面の仕事は終った。
おれの次の仕事は、何時になったら出来てくるのであろうか――と、課長は背のびをしながら、両手を頭の後に組んだ。
失踪《しっそう》の博士
いつもなら、そういう面会人は必ず応接室へ入れるのが例になっていたが、今日ばかりは特別の扱いで、課長はいそいそと席から立って指図《さしず》をし、その面会人を自分の机の横の席へ通させたのである。ちょうどその日のお昼前のことであった。
面会人は臼井《うすい》藤吾という姓名の青年であり、この臼井青年を紹介して来たのは、課長と同郷の大先輩である元知事|目賀野《めがの》俊道氏であった。しかし課長は、この大先輩に対し、あまり尊敬の念を持合わしてはいなかった。
「実は重大人物が行方不明となりましたものですから、特に課長さんの御尽力《ごじんりょく》に縋《すが》りたいと存じまして、目賀野|閣下《かっか》から紹介して頂いたような次第でございます」
青年臼井は、ポマードで固めた長髪を奇妙に振りながら、近頃の青年にしては珍らしく鄭重《ていちょう》な言葉で挨拶をしたのだった。青年の赤いネクタイが、その睡眠不
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