い臼井。お前だけ、わしについて来い。外の奴は、邸のまわりを厳重に警戒して居《お》れ」
目賀野はそういいすてて、鞄を大事に片手にぶら下げて、どんどん奥へ入っていった。臼井は遅れまいと、そのあとを追う。
自動車から最後に下りた草枝と千田が、顔を見合わせてにやりと笑った。二人は連れ立って、別の小玄関から上にあがった。
目賀野は、廊下をどんどん鳴らして、奥へ奥へと入っていった。一等奥に、洋間があった。彼はポケットから鍵束を出して鍵を探していたが、やがてその一つを鍵穴に入れて廻した。
重い扉は、始めて開いた。
目賀野は鞄を持って、中へ入った。
「臼井。うしろを閉めろ」
「はい」
扉が閉められた。と、自動式に錠《じょう》がぴしんと掛った。
この洋間には、窓が一つもなかった。しかし天井からは豪華なシャンデリアが下って、あたりを煌々《こうこう》と照らしていた。大理石のマンテルピース、一つの壁には大きな裸体画、もう一つの壁には印度|更紗《サラサ》が貼ってあった。立派な革椅子に、チーク材の卓子など、すこぶる上等な家具が並んでいて、床を蔽《おお》う絨氈《じゅうたん》は地が緋色《ひいろ》で、黒い
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