て、玄関を出た。待たせてあった自動車の中には、さっき活躍した医師と、若い男女が各一人待っていた。その若い男女は、さっき目白署において、博士の姪の秋元千草と博士の助手たる仙波学士と名乗った二人であったが、この二人はこのさわぎを他処《よそ》に自動車を下りもせず、ぽかんとしていた。それもその筈、実は両人は博士の姪でもなく助手でもなく、目賀野が便宜《べんぎ》上連れて来た脇役の人物であったのだ。その便宜とは、もちろん署から疑いを持たれることなしに、博士と鞄とを引取ることにあった。
 こうなると目賀野という人物は、なかなか油断のならない重要人物であることが知れて来るが、彼の本来の面目は次の章に於《おい》て一層よく知れよう。


   秘密地下室


 省線|田端《たばた》駅を下りて西側に入り、すぐ右手の丘をのぼり切るとそこに目賀野邸があった。
 鞄を護衛した目賀野たちの自動車が、邸内に滑《すべ》りこんだ。
 玄関にとびだして来た書生が三名。自動車の扉が明いて、ぴょんととび下りたは目賀野であった。
「さあ、こっちへ寄越せ」
 と、目賀野が伸ばす手に、車内から続いて現われた臼井が例の鞄を手渡す。
「お
前へ 次へ
全85ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング