嬢は猫のように大きな目をじっと据《す》えて、臼井の顔を睨《にら》みかえした。
「承知しました。そうしましょう」臼井は目賀野の信号によって、そのように返事をした。それから小机の上に紙を延べて借用証を書き始めたが、その品目を書くについてトランクをあける必要にぶつかった。開いて中を見せれば、すみれ嬢の大きい目は臼井の脳髄を突き刺してしまうだろう。彼は、そうした。
「ええー、よくごらん下さい」
 すみれ嬢は、トランクの中を嘗《な》めんばかりにして入念《にゅうねん》に改めた。彼女が用を終って顔をあげたのを見ると、その面《おもて》にはほっとした色があった。
「よくごらんになりましたね。品書は、一つトランク、一つ木材四本、一つ新聞紙|若干《じゃっかん》、以上――でいいですね」
 すみれ嬢が川北老に目配せをしたので、川北老が、「はい。それでようがす」
 と返事をした。
 臼井は記名|捺印《なついん》をして、その預り証を川北老に手渡した。川北老はそれをすみれ嬢に見せ、嬢がうなずくと、それを八つに畳《たた》んで、胸のポケットに収《しま》って釦《ボタン》をかけた。
 取引は終った。
 目賀野と臼井は挨拶をし
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