の腰の上を肘《ひじ》でついた。
「……そこでですね」と臼井は小山研究生と川北老夫妻へ気ぜわしく話しかけた。「このトランクとその中身とを、僕に預けていただきたいんですがなあ。もちろん博士が意識を回復されればそのとき改めて博士に申入れるつもりですが、それまでのところを、僕に預けておいて頂きたい。そしてかねがねその代償として博士にお支払いすることになっていた金十万円也を、今ここに置いて参りますから、それならあなた方も承諾して下されやすいと思う。ね、いいでしょう」
 そういって臼井は、十万円の紙幣束《さつたば》を三人の方へ差出した。三人は鶏《とり》のようにびっくりして、隅《すみ》へ固まって相談をはじめた。
 やがて相談がまとまったと見え、三人は臼井の方へ戻って来た。川北老が代表者となって折衝《せっしょう》の任に就《つ》くものと見えた。果然彼は発言した。
「とりあえずわしら留守番の者が相談ぶったんですが、その大金はお預りしますまい。その代り品物の何と何とを持って行かれるか、その品目を書いた借用証を一札入れていって下せえ。小山さんもそういわっしゃるだ」
 臼井の眼が小山すみれ嬢の方へ動いた。すみれ
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