どして、目賀野は医師やら博士の姪《めい》の秋元千草という麗人《れいじん》や博士の助手の仙波学士を伴い、自動車で駆けつけた。そして一札《いっさつ》を入れ、人事不省《じんじふせい》の博士と遺留《いりゅう》の鞄《かばん》とを内容物もろとも引取っていったのであった。
 博士を護って、一行は目黒《めぐろ》行人坂の博士邸へ入った。
 雑用係の川北老夫妻と、研究生小山すみれ嬢とがびっくりして博士の帰邸を迎えた。
 目賀野の指図《さしず》で、臼井は出迎えた人々を掴《つかま》えて話をした。
「わしは存じて居りましたでがす」と川北老はいった。「先生さまが変装なすって、そっとお出懸《でか》けになるところを確《たし》かに見て居りました。はい、トランクをお持ちになっていましたなあ。おお、このトランクに違いありません。色といい形といい大きさといい……。先生さまは外出なされるとき必ず若い男になってお出懸けなさるんで、これは昨夜にかぎったことではございません。そのこみ入った理由《わけ》はわし如き者に分ろうはずはございません。お出懸け先でございますか、それは全く存じません。先生さまは、爺《じい》や、これからどこへ行って
前へ 次へ
全85ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング