革のスーツケースにして、大きさに不相応なる大型の金具及び把手《ハンドル》を備《そな》え居り、その蓋を開きみたるに、長さ二尺ばかりの杉角材が四本と古新聞紙が詰めありたる外《ほか》めぼしきものも、手懸《てがか》りとなるものも見当らず。
一方、前記要保護人は、収容後十時間を経《へ》るも未だ覚醒《かくせい》せず、体温三十五度五分、脈搏《みゃくはく》五十六、呼吸十四。その他著しき異状を見ず。引続き監視中なり。――”
とあったので、課長はそれと気付き、立去った臼井青年の後を課員に追わせたが、遂に彼の姿を見つけることが出来なかった。課長としては、果して目白署に保護中の当人と赤見沢博士とが同一人だかどうかは不明だが、年齢《とし》がちょうど博士と合うので、損《そん》と思っても、行ってみてはどうかと臼井にすすめるつもりだったのである。
研究生すみれ嬢
臼井は、ぼんくらではなかったと見え、その足ですぐ目白署を訪ねている。
やっぱり、赤見沢博士であった。
彼は署の電話を借りて、とりあえず目賀野に知らせた。目賀野は愕《おどろ》いて、すぐ博士を引取りに行くからといった。
それから一時間ほ
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