のかして、猫又を利用した新規の起重装置をこしらえるように頼んだ。それが完成したので、持って帰ろうとしたところを、例の女が嗅《か》ぎつけて、暴《あば》れこんだという訳なんでしょう」
「そうだ、それに違いない。するとわが輩《はい》も大迂回《だいうかい》をやっていたわけだ。ちえッ、いまいましい」
天罰《てんばつ》下る
事件は、そこまでは解《と》けた。
当局は警戒網《けいかいもう》を三原山のまわりに厳重に固《かた》めめぐらした。
その一方、大学に懇請《こんせい》して、火口底《かこうてい》に果してラジウム二百|瓦《グラム》が投げこまれてあるのかどうかを検《しら》べて貰った。これは案外苦もなく分った。たしかにラジウムは火口底の南寄りの岩の間にあることが確認された。
しかし、そのラジウムを取出す方法はちょっと簡単には出来そうもないことが分り、当局は未だに警戒の陣をゆるめないで番をしている。なにしろその後、烏啼の消息《しょうそく》がさっぱり分らないので、油断《ゆだん》はならないとのことであった。
帆村はもうラジウム事件には、大した興味を持っていない。しかし田鍋課長が、彼に自慢らしく語ったところでは、烏啼はあのR大学の研究所のラジウム保管室の向いの研究室の助手に化《ば》けこんでいて、あのラジウムを巧《たく》みに盗《ぬす》み出した。それから彼は、かねて連絡をつけてあった看護婦の秋草《あきくさ》に渡した。秋草はそれを持って出て、某《ぼう》飛行場へ急行し、烏啼の一味である矢走という男をして、その品物を飛行機でもって三原山の噴火口に投げおとさせたと認める。例の美男美女というのは、この烏啼と秋草らしいといわれる。研究所の同僚たりし人々は、確かに彼ら二人を、美男美女と認めているから、間違いないと、田鍋課長はいささか得意で、椅子《いす》の背にふん反《ぞ》りかえった。
帆村の興味は、そんなことよりも、大島の松の木にひっかかっていたお化け鞄と猫又の死骸と血染《ちぞめ》の細紐《ほそひも》が、何を語っているか、それを解くことに懸《かか》っていた。
その年の春、ひどい海底地震が相模湾《さがみわん》の沖合《おきあい》に起り、引続いて大海嘯《おおつなみ》が一帯の海岸を襲った。多数の船舶が難破《なんぱ》したが、その中の一隻に奇竜丸《きりゅうまる》という二百トンばかりの船があって、これは
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