ばかりついていた。この二つの事件に、怪賊|烏啼天駆《うていてんく》が関係しているとは、目賀野の話で始めて分った。そうなると、これはますます事が面倒《めんどう》になってくる。ありとあらゆる検察力を発揮《はっき》しないと、烏啼を引捕えることは出来ない。しかし、一体どこから手をつけていいか、分別《ふんべつ》がつかない。こういうときに帆村が居てくれれば、どんなに力になってくれるか分らない。が、彼にはこの事を知らせずに、この大島へ来てしまったことが後悔《こうかい》された。
だが、その帆村が、ひょっくりと課長の前に現われたもんだから、田鍋はおどろき且《か》つよろこんだ。彼は早速《さっそく》、この事件に烏啼天駆が関係していることを帆村に語って、帆村の助力をもとめた。
「それはいいことが分ったもんです。いや実は、僕が今日飛行機でここへ飛んで来たのは、本庁からの依頼で、あなたに手紙を持って来たのです。さあ、これを読んで下さい」
と、帆村は内ポケットから手紙を出して、課長に渡した。それは課長の次席にいる主任の芥川《あくたがわ》警部からのものだった。手紙の内容は、これまた愕《おどろ》きの一つだった。
「えっ、赤見沢博士が昏睡状態《こんすいじょうたい》から覚《さ》めたというか。そして君は博士に会って話をして来たって?」
「そうなんです。その結果、いろいろと分って来ましたよ。第一に、博士はあの晩、只《ただ》の鞄の中に、例のお化け鞄――つまり重力消去装置の仕掛けてある立派な把柄のついている鞄を入れて、電車に乗ったんだそうです。決して角材《かくざい》や古新聞紙は入れなかったといいます。つまり賊は、博士の鞄とそっくりの鞄を用意し、その中に角材を入れて、二重鞄と同じ位の重量とし、博士の鞄と掏《す》りかえるつもりだったらしい。博士は言明《げんめい》しています、自分が座席に座っていると、よく似た鞄を持った乗客が近寄って来て、博士の前に立ったそうです」
「そやつが怪しい!」
「そうです。誰が聞いても怪しい奴《やつ》ですが、そのとき博士は大いに要慎《ようじん》して、自分の持っている鞄を奪《うば》われまいとして、一生懸命|抱《かか》えこんだそうです。すると怪しい乗客の連《つ》れである若い女が博士の方へ身体をおっかぶせるようにのしかかって来て、女の膝《ひざ》が博士の膝を強く押した、すると急に博士は気が遠くな
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