ったことが出来た。
「なんか異状はないか」
 と看守が、私の独房の窓から、室内を覗きこんだ。
「はア、困っていますんで……」
「困っている? それは何か」
「痔《じ》でござんす。痛みますんで、夜もオチオチ睡れません」
「睡れないのは、誰でも入りたてはちと睡れぬものさ。痔だなんて、つまらん芝居をするなよ」
「芝居じゃありませんです。じゃそこで看守さんは見て居て下さい。いま此処で股引《ももひき》を脱いで、御覧に入れますから」
 そういって私は柿色の股引に手をかけた。
「ば、ば、馬鹿」と看守は慌《あわ》てて呶鳴《どな》った。「おれが見ても判らん。上申《じょうしん》してやるから一両日待っとれッ」
 ガチャンと窓に蓋《ふた》をして、看守は向うへ行ってしまった。
 私は顔を顰《しか》めながら、茣蓙《ござ》だけが敷いてある寝台の上にゴロリと横になった。
 ――思いかえしてみると、痔の悪くなるのも無理がなかった。あの病院へ行っていたころ、本当に悪かったのである。あれからこっち、汗をかくほどの活動を、それからそれへとした上に、ラジウムの隠しどころとして、あの肉ポケットを利用した時間が実に相当の量にのぼっ
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