たのだった。その結果、患部《かんぶ》は悪化《あっか》した。いじりまわしたのが悪かったのか、それともラジウムを長い時間、患部に接して置いたのが悪かったのか。
 そういえば、ハッキリ刑務所の人間となるときに、私は千番に一番のかね合《あ》いという冒険をしたのだった。あのとき、私のあらゆる持ちものは没収《ぼっしゅう》され、素《す》ッ裸《ぱだか》にして抛《ほう》り出されたのだ。それまではラジウムを、あっちのポケットからこっちのポケットへと、頻繁《ひんぱん》に出し入れしていた。同じところに永く入れて置くと、たとい洋服だの襯衣《シャツ》だのを透《とお》してでも、ラジウムの近くにある皮膚にラジウム灼《や》けを生《しょう》ずるからだ。ところが、この素ッ裸にされ、そしてやがて襟《えり》に番号の入った柿色《かきいろ》の制服を与えられる場合になっては、最早《もはや》ラジウムはそのままにして置けなかった。洋服の一部分に入れて置けばよいようなものであるが、五年も同じところに入れて置くと、洋服の生地がボロボロになり、その隙間《すきま》からラジウムは自然に下に転がり落ちるだろうと考えられたからだ。釦《ボタン》に穴を明
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